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会社に入ってすぐにもらった仕事は、特別室で内緒の研究をすることでした。いきなり研究開発を言いつけられたのです。 この会社は社長が立ち上げられた会社で、日本では珍しい配電機器を作る会社ですが、社長は新製品開発に意欲的な方でした。 大学卒の開発技術屋さんは何人かおられましたが全員中途採用で、新卒は私が初めてでした。 大学の先生の売り込みが良かったのだと思われますが、社長は次の新製品を開発するべく私にその任を与えられたのです。 普通、入社しますと、半年くらいの間、いろいろの部署を廻って勉強するのですが、私はその実習時期がなく、いきなり開発に取り組むことになったのです。 開発の部屋は立ち入り禁止で社長が時々見に来られるだけでした。 そんな中で好き勝手に研究を続け、一年近くたったら特許申請するまでになりました。 社長も喜ばれ、自ら特許事務所に私を連れて行ってくれましたので、発明内容を説明しました。 しかし残念ながら発明は出来たのですが、商品化には至らず、私は特別室を出ることになりました。 会社本来の配電機器の設計に取り組むことになったのですが、物の作り方が分からないでは設計などできるはずがありません。 そのため機械工場で工場長付としていろいろの機械について勉強しました。 旋盤の使い方をまず習得し、フライスとかシェーパーなどという機械も使えるようになりました。 最後は鉄を削るための刃物を作るまでになりました。この作業の一番むつかしいところは焼き入れです。 刀鍛冶が最後に焼きを入れるのと同じ作業です。石炭を焚いて作り上げた刃物を真っ赤になるまで熱し、油の中に突っ込んで急冷するのですが、どのくらいに熱するのかとか、油の中に入れていく速度など工場長が付きっきりで教えてくださいました。 そのような特別の実習をさせてもらい、物はどのようにして作られていくのかということを肌で覚えることが出来ました。 これはその後の設計に非常に役立ちました。 図面を書いていると職人さんが作っている姿が目に見えるからです。ですからこのように設計すると作るのに無理が出てくるとか、表面の粗さは必要以上に細かくしないように記号表示するなど製品の必要性と工作の困難性のバランスをよく取れるようになったのです。 時がたって、人の上に立つようになってからもこの実習は役に立ちました。部下の設計図を見て、無駄なところがあるとかすぐわかるからです。 入社した時、特別室で研究したことをお話ししましたが、これは大学の先生の関係からだったのだと思います。 大学のお話を次頁で致しましょう。 |