本当の恋

 
この自伝においては、うそのない本当のことを書きます。永年連れ添っている現在の家内と結婚する前の話しです。高校時代の文通がやがて本当の恋になって行ってしまいました。家内には申し訳ないのですが、この歳になっても若かりし日の思い出はまだ心に残っているのです。

受験勉強のための月刊誌「蛍雪時代」に載っていたペンフレンドと文通が始まりこれは大学に入ってからも続きました。

私は給費生試験に合格して入りましたのでこの大学の電気工学科では一応トップ成績となり、代議員を申し付けられました。
クラスの代議員と言うのは、大学とクラスの連絡係のようなものです。クラス全体で話し合い、何か大学に対して要望事項があれば代議員がクラスを代表して大学側に要望を伝えます。
逆に大学側からクラスへの伝達事項があれば代議員がその理由などとともにクラス全員に伝えたりします。

文通相手の彼女も、彼女の大学において代議員を務めていました。
結構優秀な成績で入学したのでしょう。

最初のうちは世間話的な内容の文通ばかりでしたが、やはり男と女です。
だんだん日常の生活などの話になり、写真を交換することになりました。
さてそうなると、実際に会ってみたくなるのは自然の流れだと思います。
手紙にも双方からその希望が記されました。

日本の中ですから遠いと言ってもしれてはいますが、結構離れていますので、中間の地点で会うことにしました。
私は下宿生活で親元を離れていますから、自由が利きますが、彼女の方は親と同居です。
手紙でのやり取りの結果、それでも一泊で会うことになったのです。

男と女が同じ部屋で一泊すればどうなるか普通は想像されることと思いますが、そうはなりませんでした。
私が手を出さなかったのです。理性を以てそう判断したからです。
次の朝、彼女は泣いていました。理由を聞きましたが、教えてもらえませんでした。これは結果的に永久の謎となってしまいました。
並んで歩いていた時、滑りやすい岩の道でしたので手を取ってやったのですが、柔らかいしっとりした手でした。

その後の文通の内容は今までと全く異なってきました。
まるで恋文を毎日書いているようなものです。
以心伝心と言う言葉があります。
私は最初、似たような心は心に伝わるという風に解釈していましたが、これは間違いでした。以心伝心の「似」と言う字を「似たような」という意味で解釈していたからです。
しかしこの字は、何々を以て、の「もって」だったのです。ですから「心を以て、心を伝える」と言う意味だったのです。

好きですとか、愛していますなどと言う言葉は互いの手紙には一度もかかれていませんが、それこそ「以心伝心」でしょうか、二人とも愛してしまっていたのです。
愛と言う字を調べてみてもこの気持ちは表現されていません。
愛しているとか、恋しているとか、文字や言葉では言い表せないのです。

結婚の約束もしました。
ただ、私は周りの祝福も欲しかったですから、両親の了解も得たかったのですが、反対されてしまいました。
時間をかけて説得するより仕方ないのですが、なかなかOKは出ませんでした。


次はこの続きをお話をしましょう。


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