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会社勤めも長くなり、目標としていた部長にもなれました。晩年と言うか終りに近くなってさらに予期していなかった取締役にまでなれたのです。しかし私は技術屋だということが実感されました。 取締役になる前の部長は相当忙しい時期でした。 実務は課長たちに任せればよいわけですが、技術上の問題点が出てきますと、私の所に相談に来たからです。 現物を見、実際に試験をし、不具合点がわかれば大抵の場合、何らかの解決策を考え出すことが出来ました。 皆が知恵を絞っても解決できない問題点を解決しようというわけですから、簡単な話ではありません。 開発における部長は、問題解決ということもありますが、製品開発の責任を持っているわけです。 会社のお客様は10人しかおられません。 北海道電力から、東北電力、東京、・・沖縄と10の電力会社がお客様です。 外国も多少はあり、JRもありましたがたいしたことはありません。ですから、この10電力が主たるお客様です。 電力会社に製品を買っていただくためには「型式試験」という試験に合格しなくてはなりません。 これは電力会社から数名の方が来られて、立会いの下に製品を仕様に基づすいて試験するわけです。 基本的には100点でなくてはなりません。1点でもよくないところがあれば仕様を満足しないわけですから不合格になります。 お客様の目の前で試験するわけですからごまかしようはありません。 しかし製品開発はぎりぎりのコストでもって性能を出すように設計するわけですから、時としてうまく行かないことがあります。 「型式試験」のことを「立ち合い試験」と社内で入っていましたが、この立ち合い試験の数日前から確認のための前試験を社内で行います。 完璧に100点が出ればよいのですが、問題点がそのとき出てくることが多いです。多いというかいつもだといった方がよいでしょうか。 数日前の社内での確認試験で不具合が出ますと、さあ大変です。 問題解決の方法を考え、部品を特急で作り直して再試験しなくてはなりません。 徹夜が続くことにならざるをえません。 型式試験に合格させる責任は部長にあります。 ですから、普段は部下に任せておけばよいのですが、このような場合には陣頭指揮をとることになり、実に大変でした。 しかし、同じ部長でも、取締役部長になるとすこし様子が違ってきました。 製品開発の直接の責任は課長に任せることになり、部長は会社の将来のためには今後何を開発すべきかを考え、提案し、方向性を決めることが主な仕事になってきたのです。 会社の経営と言う方向に変わってきたのです。 私は電気設計の技術屋てあると自分では思っていましたので、この取締役はあまり適した仕事ではありませんでした。 それでも数年間取締役を続けましたので、お金は十分いただけました。 仕事が嫌だというほどではありませんが、たくさんの部下を持ちながらも活気に満ち溢れるという状態にはなっていなかったと思います。 取締役になって数年後、会社から辞表を書くよう求められました。 内心、やれやれこれで楽になれると思いました。 辞表を書き、取締役もやめましたので会社とは縁が切れたことになるのですが、実はそうではありませんでした。 取締役待遇の技術顧問として引き続き勤めるよう要請があったのです。 若い人に技術を伝承し、問題解決の相談に乗る仕事です。 年もいい頃になっていましたし、責任はなく、意見を言えばよいのが顧問ですからこんな有難いことはありません。 二つ返事で技術顧問を引き受けました。 顧問となってからも長年勤めましたので色々変化がありました。 この続きは次頁で |