忘れられない
思い出
水道

 
もう何十年も前のこと。コウモリの居る深い横穴から家の台所まで来ている我が家だけの水道。
子供心に恐々その横穴を探検したこと、台所のタンクには常時水が来ていたこと、この思い出は、今でも忘れられない思い出なのです。数十cmのタンクですが、目に浮かびます。


水道
今から70年も前のこと。しかも田舎の農家の事です。
当然今のような水道が来ているわけがありません。
しかし我が家には水道があったのです。メーターはついておらず常時水が出ています。
数十cmのタンクに細いながらも常時綺麗な水が流れ込んでいますから、必要なだけ柄杓でくみ上げて使います。夏は冷たく冬は暖かく、炊事には本当にありがたかっただろうと思います。

この水道を元の方にたどって行きますと、木管なのです。
木菅と言うのは、直径20cm位の丸太の中心に穴を開け、それを繋いだものです。鉄管はおそらく費用の点で購入できなかったのではないでしょうか。
そうして最後は家の横の丘に掘った横穴の溝につながっています。家の横には小高い丘があり、その横腹に開いているのですが、この横穴が凄いのです。

子供心に興味が沸き、探検に行ってきました。懐中電灯なんてありませんので、ろうそくです。消えないようにしながら進んでいきますが行けども行けども終点がありません。
こうもりが顔の横をスパッと通りすぎます。ろうそくが消えそうです。
でも我慢しながら進みます。子供ですから立っていけますが、大人ならかなり中腰にならねばならないでしょう。
その地面には溝が切ってあり、綺麗な水が流れています。天井からはぽたぽたと水滴が落ちています。
最初数mの所で左に分岐がありますが、これは2mか3mで深くありません。
右の穴を進み、だいぶ進みますと深そうな二又の分岐があり、どちらにしようか迷って、左を選びました。後で聞きましたらこれが正解だったのすが、なんと70mもあるのだそうです。
父がほとんど一人で掘った穴なのだそうです。右を掘り進んだのですがあまり水が出なく、第2期工事で兄も手伝いながら左を掘ったのだそうです。

基本的には皆さんの家と同様、井戸があります。
この横穴から湧き出す清水の水道が作られるまでは、ポンプをあおり、台所まで運んでいたのです。水をくみ上げ、その水を手で持って運ぶのは女性にとっては大変な仕事です。
でも何とかポンプをあおらなくても良いようにしようと、努力した結果なのです。きっとお袋を喜ばせようとして長い長い横穴を掘り進めたのでしょう。
父の執念には感心します。

こうもりの居る深い横穴、恐々探検したこと、台所にはタンクがあり、常時水が来ていたこと、この思い出は、今でも忘れられない思い出なのです。


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