忘れられない
思い出
みずあび

 
「みずあび」と言うのは、子供のころの私の地方の言葉で、水浴び、つまり水泳を意味しますが、海水浴ではなく、川で泳ぐことです。
付近には良いところがなく、午前中しか陽が当たらない山裾の川しかなかったのです。でもとても楽しく、今でも忘れられない思い出の一つになっています。


みずあび
私の生家は町から随分遠い田舎です。今はペンションや工場まで進出して来ていますが、私が子供の頃はほぼ独立した部落で、13戸だけだったと思います。
そこには小川はありますが、大人ならまたいでしまえる程の大きさですから、とても泳ぐようなことは出来ません。
この部落には数人のちいちゃい子供が居て、夏になると泳いだりして遊びたいわけですが、出来ないのです。

500mくらい行った所に、まあまあの川があります。そこまで遠征するのが楽しみです。
水着も何も持たずに皆で誘い合って出かけます。
そうして皆一斉にすっぽんぽんになって入るのですが、その場所が心配のないところなのです。
本道路から川伝いにしばらく行ったところに、ドンドコと言っていましたが、堰があって水が貯められているわけです。堰の上で泳いだり、堰を滑り降りたりして遊びます。
みんなすっぽんぽんでも、本道路からは見えませんし、我々だけの天国でした。

堰の上の水溜まりは、畳数枚分しかありませんから充分泳ぐことは出来ません。でも大丈夫です。子供達のだれひとりとして本当に泳げる子供はいないのですから。
バシャバシャやって走り回り、しゃがんで首まで浸かって水溜りを歩いて遊びます。

でも、楽しい所なのですが、ただ一つだけ問題があるところなのです。
それは、その川の南西側は切り立った崖になっていますので、午後になると日が差さなくなってしまい、寒くてしょうがなくなってしまうことです。
山里ですから夏も比較的過ごし易く、午前中はそれほど暑くありません。本当は午後からみずあびに行きたいのですけれども、駄目なのです。
ですから午前中の涼しい間に遊ばなくてはならない所ですが、ここは私達の天国でした。

もう少し大きくなってからは、1km以上離れていますが、大きな川がありますのでそちらまで出かけるようになりました。
ここは町の人たちも来る本格的な水泳場です。
流れが急なので、小さい子供は向こう岸まで渡ることはできませんでした。
知らない子でも、大きい子がしっかり面倒を見てくれました。
ここへ行く途中では、トマトでもキュウリでもどこの家の畑かなど気にすることなく、お構いなしに頂戴してかじったものです。


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