忘れられない
思い出
自動車が来た

 
子供のころ、自動車なんて田舎の事ですからめったに見る事も出来ません。そんな当時に私の家に自動車がやってきたのです。初めて自動車に乗った思い出は、人生の思い出として今でも忘れられない思い出です。

自動車が来た
私の家は、代々地主で、小作の方たちに農地を貸していたのですが、終戦後の改革ですべて小作の方の物になり、私の家は少し残った農地だけになってしまいました。
そうは言いましても、食べていくだけの米は十分取れていたようですし、色々考えた末、葡萄園を経営することにした様です。
田んぼは随分取り上げられましたが、畑はかなり残され、葡萄園として成り立つだけあったようです。
おかげで、生活はある程度確保できていました。
私のやけども治り、収穫も終った初冬のことですが、家の前に自動車がやってくるではありませんか。
自動車なんて田舎の事ですからめったに見る事も出来ません。時々自動車が来ると、子供達は追い掛けて行って、つぶさに観察したものです。
そんな当時に私の家に自動車がやってきたのです。
この感動は人生の思い出として、今でも忘れることが出来ません。
私は知らなかったのですが、父が手配したものです。
言われるように晴れ着に着替えして、さっそく乗りこみました。はじめて自動車と言うものに乗ったのです。
自動車は、普段歩いている道をしばらく走っていましたが、やがて私の知らない道をどんどん走っていきました。
そうしてついた所がなんと温泉です!
あちこちから煙が立ち昇っています。湯煙です。
何もかもはじめての事で感動ばかりでした。中でもその場で作る本物の温泉卵にびっくりしました。
温泉卵と言っても半熟のではなく、沸騰しながら沸いている源泉で直接茹で上げるのです。ゆで卵です。
その源泉の凄さにびっくりしました。


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