忘れられない
思い出
ハルキ山

 
ハルキ山と言うのは生家の地方での方言です。焚き木のことをハルキと呼んでいます。
山に入って来年使う焚き木を準備するのですが、子供の頃そこについて行って食べた弁当が今でも忘れられない思い出です。これだけ美味しい弁当は食べたことがありません。


ハルキ山
農作業を終えて一段落し、まだ雪は降らないと言う時期になりますと、来年使う焚き木を準備するのです。山に入ってその作業をしますので、焚き木の準備作業に山へ行くことをハルキ山と言います。

私の家もそうですが、各農家には、いわゆる里山として近くに自分の山はあるのですが、とてもそれだけでは焚き木を取る事が出来ません。それでだんだん遠くの山へ行かざるを得なくなります。
小学校に上がる前の私にはそんなことは分かりませんが、ハルキ山はあそこにあるということで理解していました。登って行くのに、大人の足でも40〜50分かかりますので、こどもはほぼ1時間かかります。

父と兄が作業に行きますので、暇でしょうがない私もついて行く事にしました。
登っていく間は水の流れた跡が剥き出しで、赤土や岩肌の細い道ですが、その赤土のような所を本当に息を切らしながら登ります。

着いた所は頂上に近い谷あいで、急な斜面でした。
雑木が切り倒されて一面に重なっていますから滑って落ちていく心配はありませんけれども、少し先に行こうとしますと、積み重なっている雑木をまたいだり乗っかったりで悪戦苦闘しなくてはなりません。
でもそれは私にとっては大変面白い冒険の場所でした。
父と兄とはその雑木の枝を払い、一定の長さに切りそろえて積み上げる作業をしています。わたしは乗り越えながら冒険して遊んでいるわけです。

お昼は割り子(わりご)弁当です。上から見ると、楕円形と言うかむしろ小判形でしょうか、もうハゲハゲにはなっていますが、漆塗りの弁当です。本体と蓋とがほぼ同じ深さで重なっていますので、はずした蓋は本体より一回り大きく、大体同じ形をしています。
その蓋に本体から少しご飯を入れてもらい、お湯をかけてお茶漬けにします。

斜面の一部を削って平らにした所には焚き火が燃えています。その上に真っ黒になったヤカンがかけてあって、口から盛んに蒸気を出している熱々のお湯をかけてもらったのです。
本体の方にはおかずも入っていますので、大き目の木の葉っぱにとって食べます。
その何と美味しいことでしょう。今でも忘れられない美味しさです。
ハルキ山の弁当は本当に美味しかったですね。


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