忘れられない
思い出
彫刻

 
中学の時に美術の授業で作った彫刻ですが、忘れられない思い出があるのです。人の顔を彫ったのですが出来の悪いものになってしまいました。それでも私が彫ったということで、お袋は亡くなるまで大切に磨いていてくれたのです。


彫刻

人と言うのは出来ることがあれば、出来ないこともあるのが自然だと思います。
私は国語や社会科も嫌いでした。絵をかくのも得意ではありませんでした。

中学の時、美術の時間に彫刻もありました。
四角い柱をぶつ切りにしたような木の材料を渡され、人の顔に彫り上げるのですがこれが上手くいかないのです。
横から見たらこうなるはずだ、正面から見たらこうなるはずだと、材料の表面に鉛筆で書いて、彫ってはみるのですが丸みがないのです。泣きたくなってしまいます。
でもどうにか人間の顔になりましたのでよかったのですが、非常に長い顔になっていました。

返された作品を家に持って帰りましたら、お袋が、「これは亡くなったお爺さんにそっくりだ、お前よく覚えてたな!」とからかわれました。
でもお袋が気に入ってくれました。作品が気に入ったと言うよりも、息子が彫ったと言うことで嬉しかったようです。

奥の座敷のタンスの上に置いてありました。それを毎日毎日磨くのです。
黒光りしてくるまで磨かれました。そうしてほこりを払いながら大事な宝物のようにしていました。
お袋が亡くなるまでずっと大事にしていてくれました。

その後、大学に行くようになって家を離れ、結婚して郷里を後にしましたから、この彫刻を彫った後、ほとんど家にはいなかったことになります。
それでもお袋はその彫刻のほこりを払い、磨きながら、きっと私のことを思っていてくれたに違いありません。そんなこと一言も言いませんでしたけれど、あんな出来そこないの彫刻を、大事に大事にしてくれたのですから、きっとそうだったのだと思います。

お袋が亡くなった時、その彫刻はピカピカになっていました。人に見てもらえるものではありませんが、私に対するお袋の思いがしみ込んでいます。


自伝 TOP  忘れられない思い出