忘れられない
思い出
風呂であくび

 
風呂であくびをしているところに、突然お湯をかけられるとどうなると思われますか。
むせてしまいますよね。私の子供のころの忘れられない思い出ですが、一緒に入っていた父親のあくびにお湯を入れてしまったのです。


風呂であくび
私の家は農家でした。
付近の農家はどこでもそうですが、母屋と離れたところに小さな小屋が作られ、その中に風呂がありました。
木の樽でできており、底は鉄の板になっています。
小屋の外から、その鉄板に炎が当たるように薪を焚いて風呂を沸かします。
結構大きな火になりますので、火事を心配して母屋と別に作られていたのだと思います。
水は10mくらい離れた井戸からポンプで汲んで、バケツで運んでいたようです。
そのうち井戸のポンプから風呂まで樋がかけられ、ポンプをあおるだけで水が風呂に入るようになりました。

子供は親と一緒に入ります。
底が鉄板で、火に当たっていますから、素足では熱くて入れません。
そのため鍋の落し蓋のように、大きな丸いサナ板を踏みこまなくてはなりませんので、子供一人では入れないのです。

私はだれとでも入りました。お袋と入ったこともありますし、兄と入ったこともあります。
忘れなれない思い出として、父と入った時のことです。

父と入っている時、風呂桶の中でお湯のかけっこをして遊んでいました。
しばらくして終わりになり、父があくびをしました。
その時、その瞬間、狙ったわけではないのですが、私がまたお湯をかけたのです。
そうしましたら、父のあくびの中にまともにお湯が入ってしまいました。父はごほんごほんむせていました。
出てきてから、笑いながら、皆に父がその話しをしました。「あくびした所やられると、むせるぞ!」と。

お袋の思い出はたくさんありますが、父親の思い出と言うのは意外に数が少ないです。
でも、逆にいつまででも覚えているものですね。もう70年近くになるのですが、まだその頃のことを覚えています。
お袋には可愛がられましたが、今考えてみますと、父にも可愛がってもらっていたのだなという気がします。
どのように可愛がられたかのか分かりませんが、この風呂のあくびのように、叱られもせず、笑い話にしてしまった姿が偲ばれるのです。


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